「<著者との対話>『ロールプレイで学ぶビジネス日本語』」を終えて(7.13)

話をする山辺さん

話をする山辺さん

7月13日の夜、アクラスで初めての「日本語サロン<著者との対話>」(著者としての参加は山辺真理子さんと村野節子さん)が開かれました。いろいろな日本語学校の先生方、イギリスから夏季休暇で一時帰国中の方など、著者と参加者でワイワイ話し合いながら、進められました。

まずは、著者の自己紹介があり、続いて参加者の「名前/所属/なぜこの日本語サロンに参加したのか/今、一番関心のあること」の4点セットの自己紹介がありました。これで一気に雰囲気がほぐれ、「対話」しやすい環境が生まれました。

そのあとは、本が生まれた背景、趣旨、構成、そして使い方と、まずは著者からの説明がありました。とてもコンパクトにまとまった、分かりやすい説明に、みんな納得。次は、授業実践の紹介となりましたが、実際に使っている参加者からの報告などもあり、次々に発言していきました。

この教材作成のきっかけは、「自分達がやりたい授業をするために適切な教科書がなかった」ことでした。「見つからないんだったら、仲間で作ってしまおう」と、3人が集まって、毎回知恵を絞って授業を進めるうちに、こんなすてきな教材が出来あがったのです。まさに「三人寄れば文殊の知恵」の実行版だと言えます(もう一人の著者は、向山陽子さん)。

今日のテーマは『ロールプレイで学ぶビジネス日本語』ですが、「授業に対する姿勢」「学習者とどう向き合うか」と、話は教育実践全般に広がっていきました。参加者から出た「授業を行う際に、特に心がけていることは?」という問いに対する答えは、実にさまざま、興味深く拝聴しました。

話をする村野さん

話をする村野さん

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○学生は大人であることを忘れてはいけないと思います。学習者の自尊心を高めるような授業ができるように心がけています。

○質問をする時でも、必ずその人の名前を呼んでから始めるようにしています。ロールプレイをする時でも、必ず学習者の名前を呼びますし、ロールプレイでAさん、Bさんになっているところも、必ず「えっ?Aさんじゃないでしょ。△△さんでしょ」と名前を言わせるようにしています。

○年齢もいろいろ、学習スタイルも背景もさまざま。だから自分のやり方やクラスのやり方を押しつけないように気をつけています。

○楽しい授業にすることが大切だと思っています。また、心がけていることとしては、授業前ちょっと早目に教室に行って学習者と雑談をしたり、授業が終わってからも少し教室に残って、「授業であまり発言しなかった学習者」と何気なく会話する機会を作るよう配慮しています。

○とにかく話しやすい雰囲気を作ることが大切だと思います。「ここでは何を言ってもいいんだ」「間違っても恥ずかしくない」と思わせる雰囲気作りを心がけています。

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山辺講師からは、以下のようなお話がありました。

1.謙虚さ

とにかく教師は、謙虚であることが大切です。そもそもビジネス場面に関しても、何でも経験できるわけがありません。「自分には経験が足りない」という意識を持ち、そのことに怖れを抱くことで、教師は謙虚な姿勢を保つことができるのだと思います。

2.想像力

 経験があるかないかというより、その立場に立てることが大切。つまり想像する力が大切です。そのためには、小説を読んだり、アニメを見たり……。そうする中で、経験したことのないことでも、想像し、理解することができるようになるのだと思います。

教材を見ながら説明を聞く参加者

教材を見ながら説明を聞く参加者

3.情報収集

 情報収集といってもビジネスの現場によって、かなり求められるものは違ってきます。ですから、いろいろな人に聞いたり、新聞を読んだり、さまざまな努力が必要です。

村野講師の次の言葉も胸に響きました。

「とにかく授業では教科書から離れることが大切です。正解は一つではないんですから、教科書に拘っていたら、力はつきません。『ビジネスの時に、教科書持って交渉したりできる?』と、いつも学習者に言っています」

お二人がおっしゃっていた「私達は学生によって育てられ、元気をもらっています」という言葉には、同感です。私も、「学習者によって育てられ、教師仲間によって育てられ、社会によって育てられていること」を、毎日痛感しています。

8月8日(水)には、「お茶の水女子大学 日本言語文化学研究会2012」として、「グローバル人材育成のためのビジネス日本語教育ワークショップ」があります。ご興味がおありの方は、「お知らせ」をご覧ください。ochagenbun_ws-chirashi2012

最後に、コメントシート記入タイム

最後に、コメントシート記入タイム

『できる日本語』研修会報告(6.29)

「模擬授業」の打ち合わせ

「模擬授業」の打ち合わせ

6月29日(金)の夜、『できる日本語』研修会を実施しました。今回は、一般に参加者を募る形式のものではなく、1年以上前から主教材として採用してくださっている「江戸カルチャー」の先生方10名を対象にした研修会でした。イーストウエスト日本語学校の先生方も7名参加、また、これから使ってみたいというA日本語学校の先生2名、アルクと凡人社のスタッフも加わり、20名を越える大人数の研修会となりました。

 

江戸カルチャーでは、『できる日本語 初級』が2011年4月に出版される前から『できる日本語』を使ってくださっていました。つまり「学内使用版」からのお付き合いです。「学習者の発話能力を伸ばす教科書として『できる日本語』を採用することにしました」という教務主任白石さんの言葉は、今も耳に残っています。まだ、正式に出版されていない、仮製本の形での『できる日本語初級』を採用してくださったのですから、感謝感激です。その時から、いつかは、こうした江戸カルチャーとイーストウエストの先生方で「対話」をしたいと願っていたのです。

 

実際には、既に何度か使っている人、初級レベル担当ではないため使用経験がない人など、さまざまな方がいらっしゃったため、『できる日本語』使用校同士の「対話」を進めるというスタイルではなく、説明会スタイルに近い形で進めていくことになりました。初めての方も『できる日本語』のコンセプトを理解しようと、真剣に話を聞いてくださっている姿がとても印象的でした。

 

最後には、出来たてほやほやの『漢字たまご』の説明をし、漢字学習について一緒に考えていただく時間を取りました。接触場面を大切にし、「できること」を明記した教材であり、学習者の自律性を重視しているという点に、多くの方が関心を持ってくださいました。

コンセプトの説明

コンセプトの説明

 

夜の実施であるため、2時間しか取れませんでしたが、終わってからアチコチで小さな輪が幾つもでき、「漢字学習」に燃えているグループ、本冊の使い方について夢中で話し合っているグループ、出版社の人に質問をしているグループ、思い思いに終了後のフリータイムを楽しんでいました。まさにそこでは私が求めていた「対話」の輪が広がっていました。

 

私の次なる夢は、『できる日本語』を使っているさまざまな日本語教育機関、地域の日本語教室などが集まって話し合いをすることです。既に、博多からは「こんな使い方をしています。いつか一緒に話し合いをしたいですね」というメールも頂いています。

また、将来、多様な機関から代表者を出し、刺激的なパネルディスカッションを企画したいと考えています。こうした活動を続けていくことで、「日本語教育・支援の現場のネットワーク」が、<点から線へ、そして面へ>と、どんどん広がっていくことでしょう。

 

今回は、大がかりな『できる日本語』研修会でしたが、実は、アクラスではいろいろな「ミニミニ研修会」を実施しています。例えば、先週はこんな方々が見えました。

『漢字たまご』の説明

『漢字たまご』の説明

○「ちょっと教えてください」と、横浜のA日本語教室から見えた二人連れ

○「採用を考えてるんですけど、ウチのような機関では、どういうふうに使ったらいいのかアドバイスが欲しくて……」という三人組

○「『できる日本語初級』の「できる!」ってどうやったらいいんでしょうか」と授業展開について質問にいらした日本語学校の非常勤の先生方

皆さま、『できる日本語』関連で、何かご希望がありましたら、どうぞアクラスまでご連絡ください。オーダーメードの研修会を企画致します。

 

 

「年少者の日本語教育」に関する研修会報告(6.28)

講師の志村ゆかりさん

講師の志村ゆかりさん

6月28日(木)の夜、「日本語を母語としない児童・生徒が抱える問題を考える―これから年少者日本語教育に関わる方に向けてー」というタイトルで、研修を行いました。講師は、一橋大学留学生センター非常勤の志村ゆかりさんです。志村さんは「双方向の研修会にしたいですね。参加した人がみんな自分のこととして考え、それぞれの事例を共有しながら、一緒に考えていくような時間にするつもりです」と事前に語ってくださいましたが、まさにその言葉通りの研修会となりました。
まず「本日のメニュー」として挙げられたのは、次の10項目でした。

1.彼らのビザ(在留資格)
2.来日の年齢と就学
3.日本語支援の態勢
4.彼らの学校生活と教科学習
5.彼らの家庭環境と生活環境
6.彼らの抱える問題と将来
7.年少者日本語教育の諸相
8.行政と草の根の連携
9.今後の課題
10.教科書の日本語を眺めてみる

項目ごとに話が進められましたが、講師が話をすると、すぐに受講者からさまざまな意見・体験談などが飛び出しました。それをみんなで共有し、さらに経験豊かな講師がコメントを加え、肉付けしながら話は展開していきました。志村さんの見事な運びに、改めて「経験に裏付けされたコメント力」の大切さを痛感させられました。「年少者の日本語支援は、みんな一つ一つ違うんです。来た時期、家庭環境、学習環境、いろいろな要因が複雑に絡み合っていて、事例はすべて異なります。それに丁寧に寄り添って支援していくことが重要です」という講師の言葉は、アクラスに集った方々の多様性と重なり合っていました。

みんな講師の話に夢中です

みんな講師の話に夢中です

コーヒーブレイクには、あちこちで自己紹介が始まり、それぞれの事例を熱く語り合ったり、先ほどの話し合いについてもう一度話し合ったり……。ワイワイガヤガヤ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。今回は、インドから一時帰国のTさん、小学校の先生、日本語学校や大学で教えている人、地域日本語教室でボランティアをしている人、大学院で年少者日本語教育を研究している人等、参加者は実に多様です。
最後に、教科書の中にある日本語を見ていきながら、「教科につなげる日本語教育の重要性」「学校教員との連携の必要性」、さらには「彼らに合った教科書作りの大切さ」へと話題は展開していきました。講師である志村さんは、仲間と一緒に苦労して教科書作りを進めています。その一つが『数学サバイバル日本語』です。
   http://www.geocities.jp/wakamenokai_jsl/top/koredewakaru.html
このURLにアクセスすると、詳しい説明がありますので、ぜひ一度ご覧ください。ぜひ使ってみたいという方にはPDFで送ってくださるそうです。ここでは『数学サバイバル日本語』の特色を抜き書きして、お伝えしたいと思います。

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『数学サバイバル日本語』

『数学サバイバル日本語』

この本は、「数学は得意だけど、問題の日本語がよく分からなくて答えが出せない、または間違ってしまう」という生徒向けの練習帳です。
数学の典型的な問題を解きながら、数学教科書でよく使われる表現を勉強することができます。言い換えれば、同じ日本語がたくさん出てくるので、それらの表現に慣れることによって、本来の数学の力が発揮できるようになります。

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研修会後、幾つか感想メールを頂きました。
■志村ゆかり先生による「年少者のための日本語教育」、とてもよかったです!
現場の状況をリアルに知ることができて、興味が深まる一方、実情の深刻さに胸が痛みました。でも、志村先生をはじめ、そのジャンルにあたられている方々のパワーと心の熱さに打たれて、自分にできることはなんだろうと思いながら帰りました。

■私が考えていたより、ずっと現場は大変なんだということがよく分かりました。留学生だけを教えていた私には、見えていないものがたくさんあるんだ、ということを改めて感じました。でも、今の私には何ができるんでしょうか。少しじっくり考える必要があるんですが、まずは近くの日本語教室に飛び込んで行きたい気もしています。

そして、講師からは「様々な背景の方々がそれぞれの感想を抱いてくださったことに、これからもがんばるエネルギーをいただきました」というメールが早速届きました。

地域の日本語教室で年少者の日本語教育・支援に長く関わってきた志村さんは、「日本語を母語としない児童・生徒がどんな問題を抱えているのかを、もっともっと多くの人に知ってもらい、ネットワークを作り、支援の輪を広げていきたい」という思いで、この研修を引き受けてくださいました。その思いが一人一人の心に届いた研修会でした。

参考資料①

参考資料①

参考資料②

台北「全国日語教師研習会」のお知らせ

台湾で日本語教育に携わっている先生方へ

7月6日(金)~7日(土)の2日間、東呉大学(台北)にて、「Can-doを重視した発話能力を伸ばす教材作成法・指導法」という研修会を行います。詳しくは、お知らせをご覧ください。台北「2012年全国日語教師研習会」(講師:嶋田和子)

7月実施<著者との対話>『ロールプレイで学ぶビジネス日本語』

皆さま

7月実施予定の「アクラス日本語サロン」<著者との対話>のお知らせです。

アクラス日本語サロン <著者との対話>  

       『ロールプレイで学ぶビジネス日本語』

  ◆日時:7月13日(金) 18時30分~20時30分

  ◆著者:山辺真理子(武蔵野大学、立教大学、東京女子大学非常勤講師)

        村野節子(武蔵野大学、明治学院大学、湘北短期大学非常勤講師) Continue reading »

アクラスにて「『できる日本語』説明会」実施(5月18日)

まずは全体的な説明を・・・

まずは全体的な説明を・・・

5月18日の金曜日、『できる日本語』説明会のために、千葉にあるA日本語学校の先生方が大勢アクラスに見えました。アクラスのオフィスでの説明会は、2~3名の方に使い方説明などはこれまでもやってきましたが、4時間という長時間、そして出版社の方も参加しての説明会としては、第1号でした。

A日本語学校は10月から『できる日本語』を採用することになり、現在はあるクラスで一部を使用している段階です。使ってみて沸いてきた疑問点を解決すること、副教材の効果的な活用法や学習者の実際の姿を知ること等が大きな目的でした。 Continue reading »

アクラス:6月の研修会のお知らせ

アクラス日本語教育研究会では、6月に2つの研修会を実施します。

1)OPIミニミニ入門講座  

  ・ 講師:嶋田和子

  ・6月10日(日)13時~17時

  今回は、テスター以外の方で「OPIのことはまだよく分からないので、どういうものか知りたい」「OPIの理論を実践に生かす方法を知りたい」といった方を対象にしています。OPIの構成、判定方法などを学び、実際に判定を行います。その上で、どのように教育実践に生かすことができるかについて,実践例を示しながら簡単にお話しします。この機会に是非ご参加ください。

 

2)日本語を母語としない児童・生徒が抱える問題を考える
     -これから年少者日本語教育に関わる方に向けてー

  ・講師:志村ゆかり

    ・6月28日(木)18時30分~20時30分

「これまで留学生教育に携わってきたけれど、今後は年少者日本語教育にも関わりたい」という 方が大勢いらっしゃいます。そこで、今回は日本語を母語としない児童・生徒に長年深く関わっていらっしゃた志村ゆかりさんに、豊富な経験をもとにお話をしていただきます。また、これを機会に、ネットワークの構築も目指します。

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  ■場所  アクラス日本語教育研究所
          (中野駅南口3分、詳しくはHPをご覧ください:http://www.acras.jp/

  ■定員  20名(先着順とします)

  ■受講料 無料(ただし、資料代および茶菓代として500円いただきます)

   ■申し込み方法 メールでお申し込みください。
                メールアドレス:general@acras.jp 

      ※ご質問は、嶋田まで(kazushimada@acras.jp, 03-3380-5352)

 

「学習者の発話を引き出す指導法」(日本語教師研修)

4月28日(土)、銀座エコールプランタンの日本語教授法のクラスにて、「学習者の発話を引き出す指導法」という講義を行いました。この講座では、これまでにも「プロフィシェンシー重視の日本語教育」「OPIを授業に活かす」「初級授業の組み立て方」「学習者のニーズ・レベルに合わせたタスクシート作成のコツ」といった授業を実施してきました。今回は昨年出版された『できる日本語 初級』を使って、より分かりやすい形で学習者の発話を引き出すコツを一緒に考えていきました。

ご参考までに、以下のサイトをお知らせ致します。ここには、『月刊日本語』で連載した「教科書について考えてみませんか」を載せてあります。
    http://nihongohiroba.com/?p=2254

たとえば、こんな記事があります。
  「学習者が話したくなる教科書とは」『月刊日本語』(2012年2月号)
http://nihongohiroba.com/wp-content/uploads/2011/12/758804d00f2eeec5a1b60cde1bcaf53f.pdf

 

 

 

 

「この指とまれ研修」を始めませんか?

アクラス日本語教育研究所は、さまざまな日本語教師・支援者の方々の「学びの場」として、今後の活動を考えていきたいと思っています。機関や組織を越え、分野を越え、共に学び合う機会を持ちましょう。

OPI研修、教師力アップ研修、「できる日本語」説明会、地域日本語教室ボランティア研修、地域日本語教育コーディネーター研修など、さまざまな研修会を実施する予定です。また、研修会ではなく、気楽におしゃべりをする会、テーマを決めて話し合う会など、ネットワークを広げるための場も提供していきたいと思います。

そして、「この指とまれ研修」の提案です。皆さんの中で、「こんな研修をやってみたい」「こんな研修をみんなで考えたい」というアイディアがあったら、ご連絡ください。一緒に考えてみませんか。アクラス日本語教育研究所で実施する場合は、15~20人程度ですが、すぐ近くにある「中野区勤労福祉会館」を借りれば、90人程度まで可能です。http://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/162000/d002456.html