人とつながる日本語をめざした『できる日本語』~対話で「わくわく授業」を実践していますか?~

2011年4月に第1弾が誕生した「できる日本語」シリーズは、もうすぐ5周年を迎えます。シリーズは12冊となり、現在『できる日本語中級』の副教材(「ことば・表現」関連)を作成中です。「学習者も教師もわくわくできるような教科書を作ろう!新しい日本語教育を広げよう!」と活動してきましたが、少しずつ世の中の動きも変わってきているようです。

『できる日本語』シリーズ12冊

『できる日本語』シリーズ12冊

 

「教科書が変われば、教師が変わる」と「本書をお使いになる方へ」で書きましたが、実は、それは難しいことだと分かっていました。でも、「そうあってほしい」という思いから記したのですが、現場での「変わることへの抵抗」は想像以上のものでした。

これまで緩やかな変化を期待しながら、アチコチで「対話」を重ねてきましたが、少しずつ花が開いてきています。私はいつもお話をする時に、「目の前の学習者の方々はワクワクしながら学んでいますか。そして、先生・ボランティアをなさっている皆さんもワクワクしていますか」と聞いています。さて、これを読んでくださっている皆さんは、如何でしょうか?

 

■教科書が変わっても、教師の考え方が変わらなければ「わくわく授業」は高嶺の花

『できる日本語』にはたくさんイラストがあり場面・状況設定がされています。また、各課・各スモールトピックには「できること」が明記されています。そこにばかり新しさを感じる先生方が多いのですが、『できる日本語』の重要な点は、以下のことにあります。

 

「できる日本語」シリーズは、「自分のこと/自分の考えを伝える力」「伝え合う・語り合う日本語力」を身につけることを目的にした教科書です。日本語によるコミュニケーションの中でも「対話力」に重きをおき、人とつながる力を養います

         (「本書をお使いになる方へ」p.2

 

従来通りの「教師主導型で、教え込む授業」をやっていては、対話力など育ちませんし、わくわく授業とは程遠いものになってしまいます。OPIのマニュアル(1999,121)には、次のように記されています。

 

学習者が言語運用能力を向上させたいのであれば、教師が取るべき役割は、自分自身

を「舞台に上がった賢人」に見立てるような伝統的なものではなく、むしろ、「側に付

き添う案内人」というようなものになるはずである。

 

これは教師にとってとても重要な点だと思います。

 

 

■リソースのありか・活用法を知ることの大切さ

『できる日本語』は、詳しい教え方ガイドやマニュアルはありません。それは、そういうものを作ればまた、「マニュアル通りに教えたくなる」先生方が増えることが懸念されたからです。もう一つの理由は、『できる日本語』は、シラバスもイラストも決まっていますが、学習者によって、クラスによって使い方が多様であるという点です。これは、どの教科書でもそうだと言えますが、特に【できる!】をどういうものにするのか、【話読聞書】をどんな方法でやるかについては、実に多様です。だからこそみんながワクワクしながら授業を進めることができると言えます。

 

ここで1つ付け加えておきたいと思います。言語運用能力を重視し、対話力をつけることを目指していますが、同時に言語的知識も大切にしています。一度副教材の『わたしの文法ノート』『わたしのことばノート』を覗いてみてください。また、読む力に関しては『たのしい読みもの55』、漢字学習に関しては『漢字たまご』が用意されています。日本語教育機関などでは、こうしたシリーズを効果的に使うことで「言語的知識もしっかりつき、運用能力も身に付けられる」授業が可能になると言えます。

 

では、リソースについてご紹介しましょう。アクラス日本語教育研究所のホームページに、さまざまなものが載っていますので、一度ご覧ください。例えば、初級・初中級の本冊は『教え方ガイド&イラストデータCD-ROM』を購入しなければなりませんが、中級に関しては「教え方ガイド」をウェブに載せてありますので、どなたでもダウンロードすることができます。また、『漢字たまご』も同様です。初級・初中級とも「教え方ガイド」がすべて載っています。これは、著者陣が「できるだけお使いになる先生方のお役に立つように」ということで、作成してアップいたしました。

 

また、「できること」一覧の翻訳が載っています。これはすべて皆さまのご協力によって出来ました。これを提示し、「何ができるようになりたいのか/なったのか」をチェックすることもできます。さらに、中級に関しては、「その文型・機能語がどこに出てきたのか」がすぐに分かるようにエクセルでアイウエオ順の表を作りました。これもウェブに載せてありますので、どうぞ授業準備・試験作成などにご活用ください。

 

語彙の訳に関しては、アルクのホームページからダウンロードできますので、どうぞご活用ください(英語・韓国語・中国語・ベトナム語・ネパール語)。

 

今後、授業実践なども載せていきたいと思っているのですが、時間的余裕がなく実現できていません。もうしばらくお待ちください。

 

 

■浜松日本語学院で『できる日本語』の教育実践報告会・講演会を実施(3月20日)

浜松日本語学院では、昨年4月から『できる日本語』を使い始めました。最初は、これまでのやり方との違いからの戸惑いもありましたが、今ではとても良い形で使っています。何よりも、「人とつながること」「地域社会とつながること」を大切にし、どんどん輪を広げています。そして、学習者の話す力の伸びだけではなく、学習者が日本語で人の輪・社会に入っていこうとする積極性、明るく助け合う雰囲気の教室、対話の輪が広がっていった教員室……とさまざまな変化がありました。

 

そこで、3月20日には実践報告会と講演会を実施することになりました。タイトルは「地域社会とつながる日本語教育をめざして~『できる日本語』で創る新しい日本語学校~」です。私も90分、「地域社会とつながる日本語教育をめざして」というテーマで、実践例をもとに「なぜ『できる日本語』で人・社会がつながっていくのか」についてお話をいたします。

 

また、浜松日本語学院では、『できる日本語』を使っていらっしゃる学校とのネットワークを進めていきたいと考えています。著者陣の勤務するイーストウエスト日本語学校とはもちろんですが、さまざまな地域の日本語教育機関、日本語教室などとの連携も進めていく予定です。採用校で「授業を見てみたい」という学校は、どうぞご連絡ください(担当:松葉優子℡053-450-0590 Mail:matsuba@hamasen.ac.jp)。こうして人の輪が広がっていくことはすばらしいことだと思います。また、浜松日本語学院では『できる日本語』に関して新たな企画も考えています。どうぞお楽しみに!

※私は、現在浜松日本語学院の顧問を務めています。

 

『できる日本語』に関する研修会・説明会は、これまでも個別にご希望をお聞きして実施しています。使い方に関するご質問、実践をビデオを見たいという方は、どうぞアクラス日本語教育研究所までご連絡ください。個別に対応させていただきます。  general@acras.jp

浜松日本語学院 教育実践報告会・講演会のお知らせ

浜松日本語学院 教育実践報告会・講演会のお知らせ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>